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2024 .04.27
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最近注目の作家さんの文庫本の平積みを見つけて迷わず購入。
家庭教師の仕事に就く、二十五歳の風吹(ふぶき)。何かに必死になるなんてみっともない、先の見えないはらはら、どきどきなんてかっこわるい。それで顔を真っ赤にしてしまうなんてもっとかっこわるい。そんな風吹が、大家から紹介された鍵屋の青年に一目惚れしてしまった。うまくいかないアピール、七十になってもまだ「女」である大家への哀れみのようなそうでないような気持ち、そして恥ずかしさになれるために思いきって始めてみたベリーダンス教室の講師、ヒロエ・Oと、もしかしてわけありかもしれない鍵屋――。

以下、感想です(ネタバレあり)。
この鍵屋がさあ! 恋愛小説のヒーローのくせして何この情けなさ! かっこつけやがってこのー!
仕事中の鍵屋には、読んでる私もうっかり惚れそうになりました。すらっと背が高くて、長い指長い腕いい声、淡々と仕事をし、自分にはどうやっても開けられなかった鍵をあっさり開けて、開けたらすっと帰ってしまう。風吹はきっと後ろ姿をじっと見送ったにちがいない。
でも、この鍵屋がプライベートでは駄目な奴で! 第九章「あなたに用がある」のあたりがもう最悪。でも、あの場面で鍵谷を帰らせたシーンには、赤面症で見栄っ張りで小心者の風吹の潔さ、かたくなであるがゆえの強さがあってかっこよかった。

この作品で私が面白いなあと思ったのは、ベリーダンス教室講師のヒロエ・Oの呼称がずっと「ヒロエ・O」のままだったこと。ヒロエ・Oはこの名前でベリーダンス教室を開いていて、風吹はそこで先生としてヒロエ・Oを知った。だから最初は地の文(風吹の一人称)でもずっとこの呼び方なのは当たり前。でもその後、鍵屋がらみの云々が発覚してきて、ヒロエ・Oが風吹にとってただのベリーダンス講師という以外の意味を持ち始めてからも、ずっと呼び方はヒロエ・Oのまま。小田原広恵という本名も知っているのに。
「人は他人の、自分側に向いている面しか見えないんだな」という当たり前のことがこの呼称で見えるなあ、と思ったのです。「ベリーダンス教室を開催し、四十を超えても女のにおいを振りまき、豪華な家に住んでいても夫と浮気のあてつけ合いをしている。でも堂々と『見られる女』でいつづけられる性質に一抹のうらやましさも感じなくもない」みたいな。
鍵屋のことだって最初は、仕事中の涼やかなふるまいしか見てなかった。後にヒロエ・Oとの関係もわかり、こんな人だったなんて、と思いもしただろう。でも、その頃にはもう好きだった、間に合わなかった。
罠だなあ、と思う。

脱線するので省きますが、ダンス教室仲間、山本ふみえのエピソードもいい。一寸先は闇、の、その明るい闇につかまってしまった姿。おそらく美しい結末にはならないだろうこちらの話は悲しい。人生で一度でも明るい闇に出会えてよかったと思うのか、それとも出会わなければよかったと思うのか。



タイトルの『好かれようとしない』。上にも書いた、風吹が鍵屋を帰らせたシーン(第九章内)。あれこそ「好かれようとしない」風吹の魅力だ。
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