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2018 .08.17
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休筆明け第一作ということで、単行本出たときから気になってたんですけど、保管場所とか考えるとやっぱりなー、ということで泣く泣く我慢していた本作、やっと文庫版が発売されたので喜び勇んでゲット。300ページに3編収録、という中編集。

『アカペラ』
身勝手な母親とボケてるんだか何だかわからない祖父と一緒に暮らす中学三年生のタマコ。父親は単身赴任中で、両親どちらも実はこっそり不倫中。でも大好きなじっちゃんと一緒に暮らせるならどうでもいいや、とばかりに明るくバイト(校則違反)に勤しむタマコだが、母親の「おじいちゃんを老人ホームに入れる」発言に、じっちゃんとの駆け落ちを決める。二人の逃避行の行方は……。

『ソリチュード』
高校三年の冬、失踪するように逃げ出した故郷の町に帰ってきた、三十六歳の春一。母親との再会、父親の遺影との再会、かつて恋人だったいとこの美緒との再会。美緒の娘・一花と親子まがいのじゃれあいをしつつ逃げてきた春一を追って東京の女たちも現れ、去っていく。どこもかしこも自分の居場所ではない。父親の四十九日の日、美緒の夫にも一花の父にもなれない春一は……。

『ネロリ』
出版社で社長秘書として働く志保子は、病弱で働くことのできない弟・日出男を養って暮らしている。仕事に打ち込み、弟の世話をし、弟を訪ねてくる女の子・ココアちゃんの相手をする。その生活に満ち足りていたのに、社長から依願退職を勧められ、ひとまわり年下の男にプロポーズされ、身辺が波立ってゆく。どうするのが誰にとって一番いいのか分からなくて、志保子はすべて決めかねている……。



『アカペラ』
作者はもともと少女小説出身だし、ご本人もあとがきで「原点に立ち返って十代の少女を主人公にした小説を書いてみた」と書かれてますし、畑違いというわけでは全然ないんですけど、でも私はこれなじめなかった……。
私、山本文緒の小説、一般文芸作品は全部読んでるんです。当然、少女小説も読もうかと思ったんですけど、どこかでぱらぱらっと見て挫折したんです。
文体のテンションに耐えられなくて。
テンションが、高いというか何というか。山本文緒の中で、十代の少女ってあんな感じなんでしょうかね。一人称が名前なところとか、「お湿りモードになってちゃ駄目です。」のあたりとか、読んでて疲れてしまいました。
今作は中三の少女タマコとその担任カニータと、二人の一人称が交互になってるんですが、カニータの部分は読みやすい。だからタマコよりもカニータの身の上(いいとこの息子だったのに能力が無くて、箔を付けるためだけにイギリス留学をし、大学教授である祖父や父に軽蔑されることがただ怖くて、唯々諾々とその意志に従ってしまっている。そしてそんな自分に閉塞感を感じている)の方に興味を持ってしまいました。そっち掘り下げてほしかった。

『ソリチュード』
ストーリーは山本文緒っぽかった。現状からふらふら逃げちゃって、それを後悔しているのに他にどうすればいいのか未だに分からない感じの春一とか。
春一のキャラは、『シュガーレス・ラブ』収録『過剰愛情失調症』に出てくる要士を思い出す。いい男で、それを活用して生計を立てていて、傍から見たところうまく世の中渡っていそうなのに、本人はそうとは思っていないところが。
ただ! これも文体、っつーか最後の最後で春一の口調がいっきにイメージ狂わせた気がする!
ラスト、故郷を出て東京に戻る春一。見送りに来た美緒に
「おれ、美緒と再会できてめっちゃ嬉しかった」
そして去り際に
「この町にはおれのいとこも居るんだしね」
何か違う! 何がって言われると難しいんだけど「めっちゃ」のあたりかな。他の部分の春一の口調からここだけ浮いてる気がするんだよね。あと「居るんだしね」の「ね」。ブランク空いて文体変わったのかしら。

『ネロリ』
結婚していなくても、働けなくても、本人が毎日に満ち足りていれば、それは誰から文句を言われるものでもないんだ。自分ではどうにもならない要素で幸福が手の中から逃げていくように思えることがあっても、それを受け入れなくてはいけないときもあるという静かな諦めと、諦めたその先で少しいい結果が出せればいいと思う密かな前向きさ。志保子・日出男の姉弟の雰囲気が、すごく山本文緒作品っぽくて好き。これが一番、文体に対しての違和感もなかった。
秘密を抱えたまま普通の顔をし続けたココアちゃんは大人だ。そして「誰かの期待の星になろうとする」若さもある。他人に壁を作りがちな志保子さんが、いつかココアちゃんを受け入れられる日が来れば、この姉弟の未来は悪いものではないと思う。



『アカペラ』も『ソリチュード』も悪くはなかったんですけど、あの文体の変化は何なんだろう。『アカペラ』は直木賞受賞第一作、『ソリチュード』は復帰第一作だというから、どちらもちょっと気負いがあったのかもしれない。でも『ネロリ』はだいぶ以前の山本文緒らしさが出ていると思うので、次回作はまた楽しみだな。
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